疑惑
過去に起きてしまった辛い経験を語るのに、
「もしも」という言葉はタブーだとは思う。
だが、それでもあえて自身に問いたくなる。
陣痛室のトイレで見たレバー状の出血は、
胎盤早期剥離の前兆だったのではないか。
もしあの時助産師に強く訴えていたら。
あの尋常でない陣痛が起こり始めたとき、
もしさっさと緊急帝王切開をしてもらっていたら。
その前に、もし次男をおぶって歩くなどの無理をしなかったら。
私自身のことだけではない。
もし陣痛室で助産師が心音の低下に早く気づいていたら。
もし、もっと早くO先生が分娩室に来ていたら。
もし・・・もし・・・
後に伊吹をお腹に授かった時、
そこの病院の医師にレバー状出血の話をしたところ
「胎盤早期剥離とは関係ないよ」とのお返事だった。
しかし、私の弟を危うく同じ症状で亡くしかけた母も
同じような出血をし、病院にそのことを話すとすぐに来るように言われたとか。
最大の疑問は、春歌の心音低下に何故誰も気づかなかったか、ということ。
いくら出産ラッシュだったとしても、仮にも大病院なら
忙しくて気づきませんでした、は言い訳にはならない筈だ。
それらの疑惑はずっと拭えないでいる。
告訴を考えなかったわけでもない。
だが、告訴したところでどうなるのだろう。
第二第三の犠牲者を出さないためには行動を起こさないと、と
お叱りを受けるかも知れないが、
多分これから先も何もしないと思う。
私の願いは、春歌が戻ってきてくれることだけだ。
死産後、何度も病室を訪れて様子を伺ってくれたO先生と、
春歌を一人の新生児として扱い、最後まで大事にしてくれた助産師Tさんには
多大な感謝を示したい。